NHKドラマ「マチベン」

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この4月(2006年)から、テレビの各局で「弁護士もの」ドラマが多数放送されるようである。
私はあまり連続ドラマは見ない方だが、NHKのドラマ「マチベン」は見てみることにした。
それは、私の妻が俳優の山本耕史のファンであり、この「マチベン」に「耕史クン」が出演すると日頃から聞かされていたし、そして何よりも、 町医者ならぬ「町弁」を自負している私自身、「マチベン」がどのような描かれ方をするのか興味があったからである。

ドラマ自体は、「細かい点をおいておけば」面白かったと思う。
法廷での場面は実際には「ありえない」展開なのだが、ストーリーもテンポが良く、次回以降も見てみたいと思った。

ただ、弁護士としては、この手の「弁護士もの」を見るとどうしても「細かい点」が気になってしまう。
ここでは、ドラマ「マチベン」を見て気になった「細かい点」をあえて指摘してみることとする。

法律事務所の設定

事務所の所在地は、ドラマ中にちらっと映った「訴状」の記載によると、東京都文京区本郷8丁目とのことである。
私が通っていた東京大学は文京区本郷7丁目なので、そのすぐ近くであれば、町の雰囲気からして「マチベン」というにふさわしいと思った。

事務所のテナントであるが、もと薬屋の古びた店舗をそのまま使っているという設定は、ドラマだから仕方がないであろう。

しかし、法律事務所が商店街に面した1階にあり、しかもガラスの引き戸で通りから事務所内が丸見えという設定はいかがなものであろうか。ドラマでは、相談者が相談している状況まで、通行人が簡単に覗けそうな状況であった。

法律事務所に相談に来る人は、身近な人にはなかなか言えない悩みを抱えていることがよくある。そのような人にとっては、出入りするところや相談しているところが多数の人に見られてしまう場所にある法律事務所は、かえって入りづらい所となってしまうのではないか。
実際、建物の1階にある法律事務所は、東京や横浜では、私が知る限りは存在しない。

また、ドラマの事務所では、セキュリティーの点で問題である。
法律事務所は、依頼者の高度な秘密に関わる書類等を預かることが多い。それが財産的価値のあるものであることもしばしばである。

ドラマの事務所は、見る限りでは、泥棒がいとも簡単に侵入できそうな造りである。これでは依頼者の秘密は守られそうもないし、弁護士としても安心して職務に専念できないのではないか。

ちなみに、私の事務所では、夜間等に事務所に誰もいなくなる際にはセキュリティーがかかるようになっており、万一泥棒が侵入しようもものなら、すぐにビルの警備員が駆けつけてくれる態勢になっている。
私の事務所は、ゆめおおおかオフィスタワーの22階にあり、窓からの侵入はおよそ不可能であるし、休日等でフロアに誰も人がいない時には、エレベーターが22階には止まらないシステムになっている。

全国辯護士大観(全国弁護士大観)

ドラマの中で、山本耕史クン扮するところの榊原弁護士が親子3代法律家のサラブレッドであることを説明するため、弁護士の写真入りの名簿を示して、沢田研二扮するところの弁護士が話すシーンがあった。
これは、実際には、民間の会社が昔から出版している「全国辯護士大観」(全国弁護士大観)という分厚い書籍があり、それをモデルとしたものであると思われる。
ドラマに映った感じでは、結構本物っぽいものであった。

ドラマでは、この本の中で、榊原弁護士のプロフィールとして「祖父が最高裁判所判事」と書かれていた。
このシーンを見て、私は「なんだこりゃ」と思わず言葉にしてしまった。

「全国辯護士大観」は、全国の弁護士の顔写真等が掲載されている名簿であり、私を含めて多くの弁護士がとりあえず事務所に常備していることが多い書籍である。私は、新たに事件の相手方弁護士として付いた代理人の情報を得るため、この本を見ることがしばしばある。

この本は、買うと4万円くらいするのであるが、自分の情報を載せるのは無料でできる。自分についての情報は自分で原稿を作って出版社に送ることになっており、搭載できる情報も、生年月日、出身地、事務所名称、所在地、連絡先、経歴、得意分野、趣味に限られている。

ドラマを見て、改めてこの本を引っ張り出してきて見てみたが、「祖父が最高裁判事」などと書いている弁護士は見あたらなかった。

この「全国辯護士大観」に載っている情報は、基本的には各弁護士の自己申告に基づくものである。
弁護士には、この出版社に情報を申告する義務があるわけではないので、当然のことながら、出版社に情報を提供しない弁護士も多数いる。
そのような場合、その弁護士については、弁護士会から公表されている最低限の情報のみがまとめて最後に掲載される(顔写真は載らない)。

我々弁護士の世界では、たしかに祖父が最高裁判事であろうものなら、そのことは各弁護士の間で口コミで伝わることは確かである。
しかし、そのような弁護士自らが「全国辯護士大観」の中でそのことを公表しようものなら、「変な弁護士」とレッテル付けされることもまた目に見えている。

ドラマを見る限り、「耕史クン」は「変な弁護士」ということになるのである。

「マチベン」の由来

私は、大企業相手でなく、一般個人の方を主たるクライアントとする、町医者ならぬ「町弁」を自負していることは前述した。
一般的にも「町弁」という言葉は以前から広く知られているようである。

ところが、今回、ドラマの中で、主役の江角マキコ扮するところの天地弁護士に敵対する大事務所の弁護士が、次のようなことを言うシーンがあった。
すなわち、マチベンの「マチ」には、「町」という意味のほかに、依頼人を「待ち」続ける(つまり、儲からない)意味もあると、皮肉を言うシーンである。

私自身は、「マチベン」という言葉にはこのような使われ方もあるということを、ドラマを見て初めて知った。なるほど、と思った。

たしかに、東京や大阪といった大都市で開業している弁護士の中には、弁護士どうしの顧客獲得の競争が厳しくなってきている状況があるようであり、依頼人を待ち続ける儲からない「マチベン」も実際にいるようである。今後、弁護士の人数は以前よりも格段に増え続けることが決まっており、この状況は一層深刻になることが、我々弁護士の間ではしばしば話題となっている。

しかし、東京や大阪以外では、まだまだ弁護士の人数は少なく、一般の方の弁護士に対する相談需要に対して弁護士が十分に応え切れていないのが実際である。
「依頼人を待つ」という意味での「マチベン」という言葉は、弁護士の間では今のところそれほど一般的な使われ方ではないと思われるが、今後はどうなるか分からないところである。

その他の細かい点

  • ・主役の江角マキコは、インタビューで、「役を考えたとき、この女性が鏡に向かって化粧をすることはあり得ないと思った」と述べている。
    でも、女性の弁護士でバリバリやっている方をよく見かけるが、皆さんそれなりにお化粧しているようである。
    スッピンでいいのは江角マキコならではないのか。
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  • ・ドラマを見る限り、事務所は沢田研二扮するボス弁の他に2名の弁護士がいて、事務所形態としては経費共同型ではなく収支共同型と見受けられるが、そのような事務所で事務職員1名でやっていけるのか。
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  • ・耕史クンは、「新選組!」で演じた鬼の副長があまりにもハマッていたと思うので、今回のドラマのようなエリートっぽい役はいかがなものか。
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